Lightning Networkはオフチェーン決済を行う2者が資金を両者のマルチシグにデポジットするトランザクション(Funding Tx)をオンチェーンにブロードキャストし、そのデポジットした額(キャパシティ)の範囲内でオフチェーン決済を行う。キャパシティを超える額の決済はできないし、どちらか一方の残高が0になると、0になったユーザーからのそれ以上の送金はできなくなる。ここでチャネルに資金をチャージできるようになると便利だし、逆にチャネルの資金の一部を、別のオンチェーン決済に使いたいというケースも考えられる。こういった既存のチャネルへのチャージおよび既存のチャネルからの引き出しをできるようにしようというのがSplicingのコンセプト。
現在提案されている基本的なSplicingは以下のように動作する。
Splice-in
アリスとボブのペイメントチャネルにアリスが資金をチャージしたいケースでは、以下のようにチャネルに資金をチャージする。
アリスとボブは新しいFunding Txを作成する。この新Funding Txのインプットは
- 既存のペイメントチャネルのFunding Txのアウトプット
- アリスがチャネルにチャージするコインを持つUTXO
の2つ。新Funding Txのアウトプットは変わらずアリスとボブの2-of-2のマルチシグ。
続いて新Funding Txをインプットにして、それぞれCommitment Txを作成する。この新しいチャネルのCommitment Txの初期状態の残高は
- ボブの残高は、旧チャネルの最終のCommitment Txのボブの残高
- アリスの残高は旧チャネルの最終のCommitment Txのアリスの残高 + 新しく追加したUTXOのコインの量
となる。
両者が新しいCommitment Txの作成・署名・交換を終えたら、新Funding Txをブロードキャストする。これにより、旧チャネルのクローズと新チャネルのオープンが同時に行われる=セトルメントトランザクションが自動的に新しいチャネルのFunding Txになる。
また新Funding Txの作成途中や、新Funding Txがオンチェーン上で必要な承認数を待っている間も、ペイメントチャネルを使ったオフチェーン決済は可能で、新旧両方のチャネルでそれぞれ決済を反映したCommitment Txの更新をすれば良い。
Splice-out
反対にチャネルから資金を取り出すケースも同様の仕組みで対処することができる。
アリスがチャネル上の資金の一部を使ってオンチェーン決済を行うケースでは、以下のようにチャネルから資金を取り出してオンチェーン決済を行う。
アリスとボブは新しいFunding Txを作成する。この新Funding Txのインプットは
- 既存のペイメントチャネルのFunding Txのアウトプット
新Funding Txのアウトプットは、
- アリスとボブの2-of-2のマルチシグ。
- アリスがオンチェーン決済したいアドレス宛のアウトプット。
の2つ。
続いて新Funding Txをインプットにして、それぞれCommitment Txを作成する。この新しいチャネルのCommitment Txの初期状態の残高は
- ボブの残高は、旧チャネルの最終のCommitment Txのボブの残高
- アリスの残高は旧チャネルの最終のCommitment Txのアリスの残高 - オンチェーン決済に使用するコインの量
となる。
後はSplice-inと同様、両者が新しいCommitment Txの作成・署名・交換を終えたら、新Funding Txをブロードキャストする。
HTLCを使ったSplicing
もともとSplicingの議論は昨年LNの開発者MLの↓の投稿から始まった。
[Lightning-dev] Channel top-up
↑のプロトコルは、アリスがチャージしたい額のコインをオンチェーンでボブに送信し、それと同額のコインをチャネル上でボブからアリスに送る処理をHTLCを使ってアトミックにするというものだった。
この場合、アリスがボブにオンチェーン上で送金するトランザクションと、ボブからHTLCに設定された期間内にその送金を受け取るトランザクションの2つをオンチェーン上にブロードキャストする必要が出てくる。
↑のSplicingを使えば、オンチェーン上のトランザクションは1つだけで済むのと、プロトコル的にもシンプルになる。ただチャネルのクローズが発生するため、LNの各ノード上はペイメントチャネルのクローズとして認識してしまう。実際はSplicingによりキャパシティの変更があっただけで、チャネル及びルーティングは有効なままなので、それらを認識できるようなメッセージの追加なりが必要になる。
いずれにせよ、LNにおけるSplicingの仕様はまだFixされている訳ではないので、今後新しいアプローチが出てくるかもしれない。